総幼研の教育活動を科学的に検証〜総幼研日課活動を脳科学で読み解く〜

脳科学者・篠原菊紀先生による研究報告【対談抄録】

実験結果1:日課活動と脳の活性化
実験結果2:日課活動=快
実験結果3:動きと言葉とリズムが育むもの
実験結果4:リズム・テンポ・繰り返しで楽しい活動
実験結果5:メリハリのきいた園生活

実験結果1:「日課活動と脳の活性化」

総幼研の教育では毎日の日課活動が中心になるのですが、今回の実験結果から日課活動についていえることはありますか

篠原:全体的に見れば左脳の発語性言語野(ブローカ野)の活動が目立ち、右脳では背外側前頭前野(46~49野)および頭頂連合野の活動が目立ちます。これは日課活動が読みの活動であるとともに、素早い画像処理を要求する課題であることによると思われます。頭頂連合野というのは空間的な位置関係の把握であるとか前頭葉と連動しながら注意の配分を司ります。

日課活動と脳の活性化

日課活動は、発語力を中心とした言語能力や空間認知能力を高めるということですね。

篠原:また学年別にみていくと、最年少2歳児では左脳優位の反応が出ていますので、意識的に頭を使っていると思われますが、年少・年中では慣れたためか脳活動が全体的に鎮静化し、注意にかかわる部位、言語野、右背外側前頭前野の活動が高まっています。年長ではさらに頭頂連合野の活動も高まり、広範に注意を集中しながら活動ができていると思われます。

日課活動を続けていると、年齢が上がるにつれて視野が広がり、広い範囲を見渡す注意力を身につけることができるということですね。

実験結果2:「日課活動=快」

「カードあそびなどの日課活動は、子どもに無理矢理やらせているのではないか」と保護者の方からご心配をいただくことがあるのですが、実験結果から日課活動中の園児の意欲についていえることはありますか。

篠原:日課活動は話だけ聞くと、短時間にたくさんの課題があり、ものすごいストレスをかけているように見えます。ところが実際、脳活動を調べますと、左右の下前頭回が鎮静化しており、ストレスはむしろ無く、快に近いのです。またタスクごとに脳活動の上げ下げがしっかりとできていて、とくに右脳に比べ左脳の活動が高く、46野(記憶、ワーキングメモリ)の活動が高いことから、自分の頭で考え、覚えようとしているといえると思います。

園児たちは日課活動を楽しんで行っており、自分の頭を使って意欲的に覚えようとしているわけですね。

実験結果3:「動きと言葉とリズムが育むもの」

日課活動では動き・言葉・リズムという3点を意識するようにしているのですが、今回の実験結果から、これらの効果について何かいえることはありますか?

篠原:日課活動中の脳の動きで特徴的なのは、運動野が活性化していることです。これは実際に走ったりとか手を動かしたりした時に、活動が高まっていく部位です。しかし日課活動では姿勢を正して声を出しているだけで、手を動かしたりしているわけではありません。にもかかわらず運動野が活性化しているということは、体の運動のイメージとかリズムができているということなんですね。それを示すのがウェルニッケ野です。ここは言語中枢やリズム取りに関係する部位なのですが、その活動が高まっている。日課活動の声を聞きながら、日課の内容を知的に処理しているのと同時に、おそらく音楽的にも処理しているところが出てきていると思われます。

動きと言葉とリズムが育むもの

日課活動を通じて、動き・ことば・リズムが一体となって、結果として知・情・体を同時に成長させることができているということですね。

動きと言葉とリズムが育むもの

実験結果4:「リズム・テンポ・繰り返しで楽しい活動」

日課活動ではリズム・テンポ・繰り返しという流れを意識するようにしているのですが、今回の実験結果から、これらの効果について何かいえることはありますか?

篠原:脳の奥の方に線条体という場所があります。線条体は大脳基底核の一部なのですが面白い位置関係にありまして、体のコントロールに関係するという処理をするだけではなくて、ドーパミン神経系とアクセスしています。簡単にいうと行動と快感をマッチングする場所です。活動に慣れてきて自動化すると線条体の活動が高まるので勝手に気持ち良くなる。では、最初からそこが狙えるかというと最初からは狙えないのは自明の理です。最初から自動化はできません。そのために必要なのはリズム→テンポ→繰り返しということになります。

リズム・テンポ・繰り返しによって日課活動に慣れるからこそ、園児たちは楽しく活動できているということですね。

リズム・テンポ・繰り返しで楽しい活動

実験結果5:「メリハリのきいた園生活」

園での1日の過ごし方について、今回の実験結果から、何かいえることはありますか。

篠原:交感神経の比率が概ね50~80%の範囲にあるのが適切な刺激であり、バランスが良い反応という話になります。全体を見るとこれは適切であるといえると思います。それぞれのアクティビティで見ていくと、朝、体育ローテーションをはじめると交感神経が優位になります。移動のときには副交感神経が優位になります。朝礼・体操や日課・音楽の時にも、かなり副交感神経が優位な状態なのでリラックスしている。日課活動は見た目のような追い込んだ状態にはなっていないんですね。事実、子どもたち自身には、こなれたリラックス課題になっているという側面があります。お昼に向かって徐々にリラックスしていると、この後、昼寝に入るのは簡単だろうと思いますね。メリハリがよくきいているというのが印象です。

メリハリのきいた園生活

一日の過ごし方にメリハリがついていて、緊張とリラックスを繰り返しながら徐々にリラックスに向かっていてバランスがいいということですね。

メリハリのきいた園生活

 

諏訪東京理科大学共通教育センター教授
篠原菊紀(しのはら きくのり) 先生

●長野県茅野市出身。東京大学、同大学院教育学研究科博士課程等を経て、諏訪東京理科大共通教育センター教授、学生相談室長、東京理科大総合研究機構併任教授。
専門は応用健康科学、脳神経科学。多チャンネルNIRSや視線追尾システムを使って、「学習しているとき」「運動しているとき」「遊んでいるとき」など社会応用を目的とした日常的な脳活動を調べている。教育産業との共同研究も多い。
●「はげひげ」の脳的メモ……http://higeoyaji.at.webry.info/

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