第9回 自発性と規律の両立。「実行機能」の視点から考える。

「自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学」
森口佑介著 講談社現代新書刊

すでに何度か講演でも取り上げているが、総幼研教育と直接関連した部分で、特に教えられたのが本書である。京都大学大学院准教授で発達心理学を専門とする著者は、現在の教育学を牽引する研究者のひとり。この本で紹介されている「実行機能」の概念は、これまでも述べてきた総幼研教育の理念に、新たな見方を加える可能性を秘めている。

実行機能とは心理学や神経科学の専門用語だが、要するに「目標達成のために自分の欲求や考えをコントロールする能力」のことである。昨年、ラグビーワールドカップが盛り上がったが、日本代表チームの勝因として、ほとんど反則を起こさない規律のよさがあるという。目の前の誘惑(このボールを奪いたい)に抵抗し、ルールの範囲内で冷静にプレイを遂行し、それによって将来的利益(チームの勝利)を選択する力が、実行機能なのだ。総幼研で常々語ってきた非認知スキル、中でも代表的な「自制心」と関係する力である。

興味深いのは、実行機能が単なる「我慢する力」とは一線を画するという点である。通常、私たちは「自制心」と聞くと「ブレーキ」をイメージする。「かばんの中のお菓子を食べたい」というアクセルに対して、「家に帰るまでは我慢しよう」とブレーキをかけるように。しかし、実行機能にはもうひとつのタイプがあり、それは複雑な状況に出会った時、普段の習慣や癖を自制し、修正する「ハンドル」の力だという。ひと言でいうと「思考や行動を切り替える力」である。ラグビーの例にあてはめるなら、こちらの方がしっくりくるだろう。

さらに脳科学の見地からも、実行機能は幼児期にこそ著しく発達する。では、どのように子どもとかかわるべきなのか。ここでは2つのポイントだけ紹介しておこう。ひとつ目は、子どもの自発性を尊重する「支援的な」かかわりである。たとえば子どもが服のボタンを外そうと頑張っている時、大人が先回りせず、子ども自身にボタンを外させるよう見守ることが重要である。そして2つ目が、生活の規律を守る「管理的な」かかわりである。子どもが自発的に規律を守るよう、もちろん体罰や恐怖を与えずに、ある程度の統制を行うことは好影響を与えることが分かっている。

一般家庭よりも環境や人材が揃っている園は、こうしたポイントを押さえることが容易であろうし、何よりも自発性と規律の両立は、総幼研が長年伝えてきた理念に合致する部分が大きい。「実行機能」という視点を獲得することによって、総幼研教育の課題やさらなる可能性を見出すことができるだろう

秋田光彦

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