保育も、プライベートも、
余裕を持つことで
より輝いてくる。

2020年2月公開

こどもプラスホールディングス株式会社代表取締役・博士
栁澤弘樹先生に聞く

筑波大学大学院、人間総合研究科体育研究科科学博士課程を修了され、同大学院博士特別研究員を経て、現職に就かれたいまも様々な問いを持たれ、学び続けられている栁澤弘樹先生。もともとは高齢者の認知症予防の研究からはじまって、次第に子どもの運動あそびや発達障害の調査にも携わるようになったといいます。平成25年度には総幼研の脳内活動計測実験をご担当いただき、過去の研修会では講師として、運動あそびや心の発達をテーマにご登壇くださいました。今回はそんな栁澤先生にご自身の活動を振り返っていただき、現在の思いや展望を伺いました。目まぐるしく変化する時代の流れや人の成長に関するお話をはじめ、保育に携わる方々へ通じる日常のヒントをお届けいたします。

※栁澤弘樹先生が開発した、発達障害の子が楽しんでできる『柳沢運動遊び・療育プログラム』を紹介した1冊。落ち着きのない子も集中力がつき、気持ちのコントロールもうまくできるようになる、そんな家庭で楽しくできる運動あそびを多数収録しているイラスト図解の本。

いま活動されている中で、特に気になることをお聞かせいただけますか。

障がいのお子さんに療育を提供する事業をやらせていただいている中で、大人になった時の仕事に不安をもち、悩まれているご家庭が多いことから、この課題を解決するために何かできないかと考えています。一般的に18歳になると、子どもは親もとを離れて社会へ出て独り立ちをしていきます。しかし、障がい者の方は真逆で、18歳になるとなかなか行くところがなくなってくるんです。

また障がい者の方が就労所でパンをつくるといっても、その道を究めようとしているプロの完成度の方が高いことが多いでしょうし、就労支援の事業所の事業モデルや仕組みによる課題や限界もあります。そこで、これからの時代ならではの新しい就労のカタチを考えながら、障がいの有無にかかわらず、全ての子どもたちを総合的に、継続的に育めるようなサービスをつくっていけないかと、私自身、様々な業種の方とかかわる中で学んでいるところです。

近頃は子どもの習い事もプログラミングを学んだり、YouTuberを目指すような、一昔前とは違った能力が求められてきています。それによって生じうるリスクも昔とはかわってきました。たとえば、動画の配信によって顔や身元がばれてしまうことです。しかし、危ないからといって禁止してしまうと、これからの社会で必要な力を磨くことはできません。

そこで、顔のパーツだけを入れ替えるモーフィングなどの新しい技術を活用することで、リスクを解消しながらスキルを高める環境を整え、これからの子どもたちのみならず、子どもにかかわる大人もテクノロジーを活用することやその可能性を知ることで、世の中の流れや同行に気づけるような場をつくっていきたいと思います。

現在も「目まぐるしく、かわっていく世の中」といった印象を受けますが、子どもたちが大人になる時代には、きっといまの数倍の早さで変革が起こっていくでしょう。いまはFacebook、YouTubeなどがありますが、多分10年したらまた違った発信の仕方、仕事があると思いますし、使えないものも出てくる。5年後の予想もつかない状況で大事なのは「時代の流れにのってみる感覚を身につけてもらうこと」だと感じています。

YouTubeなどを使った動画配信は、インターネットを介して世界中に情報を発信でき、世界中から広告収入を得ることができますし、国内だけの市場規模とは桁が違ってきます。従来では考えられなかった仕事もこれからは生まれてくるでしょう。他の例で例えると、スカイプなどは顔を見ながら双方向のコミュニケーションが可能です。自分の知識や価値を評価してくれる人がいなくても、遠く離れたところにはお金を払ってでもつながりたいと思ってくれる人がいるかもしれません。

いつの時代も、人は人とのかかわりを求めるものです。今後、リアルなフォログラム技術が開発されていけば、画面で相手を見るのではなく、あたかもそこに人がいるように会話ができるようになるでしょうし、テクノロジーを介すことで、より効率よく、多くの可能性を手に入れる時代がくるでしょう。

このような技術を活用して、いままでにない新しい仕事を生み出すことで、障がいの子だけでなく全ての世代の人たちが自分にあった仕事を選べるようになってくると考えています。

テクノロジーが活発な時代における子どもの学びや育ちのあり方について、どうお考えになりますか。

人間の能力は、AIが効率よくその子に合わせた学習プランを立てて、教えてくれたら学習スピードは10倍になるといわれていて、義務教育9年分が、ほぼ1年で終わる量になるといわれています。なので、これからはパソコンのデフラグチェックと同じで、できないものを効率よくつぶしていくといった学習法が当たり前になっていくかもしれません。

人間にとって1日は24時間。その中で、寝る、食事をするとか必須な時間があるんです。知識の学習も大事ですが無駄に長かったりするじゃないですか。小学校受験とかで3年生なのに塾に11時まで、とか。そうすると、大学に入るのがゴールになってしまう。入るのがゴールではなく、そこまでのプロセスの中でいかに力や知識や経験を蓄えて社会に羽ばたいていくかだと思うんです。

思春期までは知識を効率よく身につけ、時間ができたところで、生きる力をはじめ、からだをそだてる(厳密には脳を育てることにもなるんですけど)。それに、たくさん遊べるはずなんです。遊ぶ中で身につく学びだってありますよね。

私自身、子どもが3人いて、絆をつくるためにも家族旅行はしたいですし、成功や失敗も含めて家族でなければ教えられないことをたくさん教えてあげたいと考えています。もちろん勉強もしてもらいたいですよ(笑)

では、先生方が時代とうまく付き合うヒントを伺ってもよろしいでしょうか。

園には、耐えることが美学であるような時代で生き抜いてきた世代をはじめ、清潔で安全な環境の中で育ってきた世代まで、様々な先生方がいますよね。昭和初期、後期、平成があって、令和の中での、それぞれの経験や失敗を考えると、ベテランの先生といまの先生では経験した数も内容も違う。失敗も成功も含めたいろんな経験によって培われてきたものが、話し方、考え方につながり、それが保育内容や環境設定に生かされていると思います。

もし経験したことがないことを実施しようとする場合、不安や心配はどうしても生じてしまいます。であれば、いかに多くの経験を積み重ねているかが大事ではないでしょうか。自らは失敗せずとも、失敗した人の経験を自分のものにできるといった、いまの時代だからこその学び方もあります。たとえば、オンラインの情報収集、誰かの体験を疑似体験するといったVRもでてきていますし、それらによって自信がつくと、次はやるべき業務の優先順位もつけやすくなってくると思います。明確な管理ができていれば、安心して自分がいまやることに熱中できる。

でも目先の問題の対処ばかりしていると、漠然としたスケジュールしかつくれず、頑張っているんだけれどミスや準備不足が露呈してしまいます。そうなると、常に不安感にさいなまれて、いつまでたっても自己肯定感が小さいという悪循環に陥ります。そのような状況では、身の回りの整理整頓さえもできず、何か問題が起きた時にも把握するまでに時間がかかったり、対処するための職員の連携がとりにくくなってしまったりします。

また不安感に追われていると自分は頑張っているつもりなんだけど、パフォーマンスが悪い。何かミスがあったり、抜けがあったり……。そうなると、新しい知識を吸収したりチャレンジしようって気になれないんですよ。

本人の姿勢以外に、先生方どうしの場面ではいかがでしょうか。

人の成長を子どもと同じように長期的に考えることができれば、業務場面でいまできないこともプラスに捉えられ、いい関係になっていくかと思います。部下、同僚など先生どうしにおいて、また社会人における成長プロセスにおいて、そういったプラスの捉え方がない職場では、声かけも上からの押し付けになってしまう。子どもの成長場面に置き換えるとわかりやすいかと思います。たとえば、何か失敗してしまった子どもの動作や行為もネガティブに捉えるのか、ポジティブに捉えるかによって、声かけも違ってきます。

水をこぼした場面を考えてみましょう。「何こぼしてるの!全くもー、ぼーっとしてるからでしょ!」とネガティブな捉え方をするのか、逆に「何してたの?○○ちゃん、こぼしちゃったけど何かあったの?」と一呼吸おいてポジティブに捉えようとして尋ねるのか。そこには、その子なりの理由があるかもしれない。子どもの場合、特にそういうところでしっかり考えたり説明したりする機会があるって大事だと思うんです。でも大人に余裕がないと、ネガティブで威圧的なかかわりをしてしまう。余裕が「愛情」と表現されることもありますが、愛情のもとに育った子どもは自信をもって失敗できるようになります。

そして、チャレンジできるんです。なぜなら、見ててくれる導いてくれる人(大人)がいるから安心なんです。先生どうしも、愛情といった余裕がたいせつなのは同じじゃないかと思います。

さらに保育において子どもの成長も絶対連続的に起こりますよね。スパイダーマンみたいに「ある朝、急に能力が覚醒しました」なんてことは、まずないわけで積み重ねが大事です。どの子も積み重ねがあって、たまにちょっと止まってしまう子もいるかもしれないけど、またグッとのびる時がある。それは定型発達の子どもだけでなく、障がいの子もいっしょで、速度は違っても同じステップを踏んでいくはずです。でも、そのためには要所要所にたいせつなところがあって、危ない場面などもしっかり経験して、その中で成長していく。先生方も同じです。

また余裕ができれば、園内の保育プロセス自体の説明もしっかり共有できるのではないでしょうか。園がこんなことをしているのは、こういう歴史があって、この時期の子どもにとって、こんなことが大事なんだよ、っていう説明があるのとないのでは園全体のかかわり方もかわってきます。それがないと「押し付けだ」「ここはやりたい保育をやらせてもらえません」といった、すれ違いになるのだと思います。園でも先人たちの積み重ねがあって、それをどのように伝えていくかが大事で、先人の思いなどをつないでいく責任もあるかと思います。

総幼研教育の特徴的な活動のひとつである体育ローテーションも長い歴史があって、からだの基礎づくりをするような粗大運動として、子どもたちが集団で行うウォーミングアップ的要素が強い活動です。でも、これだけでは足りなくて、正確性を学ぶ巧緻性の高い体育活動などを別の機会に行うといった組み立てがあってこそで、両側面をたいせつにされているところがすばらしいと思います。そして、からだだけでなく、言語などのあたまの活動も含め、微細運動となる日課活動もバランスよく行っている。

先生方もぜひ余裕を持って保育ができるように、まずは日々の保育を楽しむこと、子どもの成長、仲間の成長を楽しんでください。

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