瞑想と実行機能。「小さながまん」から活動を見直す。

■目標達成のため自制する
世界が注目する歴史家ユアル・ノア・ハラリの新著は「瞑想の勧め」で締めくくられています。人類の危機に警鐘を鳴らす超一流の知性が、自己内面の徹底的な観察を説くのは意外でもありましたが、不思議な親近感も覚えました。
総幼研の多くの園では、日課の最初に瞑想の時間を取り入れています。体育ローテーションで全身を使った発散活動の直後に、保育室ではまず心身を整え、数分間の完全静止状態に入る。非常に日本的な光景といってよいかもしれません。
何年か前、体育科学の研究者である栁澤弘樹先生が日課活動における脳内活動計測実験をしたことがあります。子どもに計測器を着装し、瞑想をした場合のその後の活動と、しなかった場合の脳血流の活性具合を比較測定したのですが、結果はご承知の通り、後者が顕著に活性化し、瞑想の影響の大なることが証明されました。
また、発達心理学者である森口佑介さんの著書『自分をコントロールする力』に「瞑想が実行機能を育てる」という話が出てきます。実行機能とは、「目標達成のために自分の欲求や考えを自制する能力」のことですが、注目すべきは、この機能は幼児期において劇的に発達し、子どもの将来の社会的成功や健康維持、犯罪率の抑止まで予測するという点です。同著でも、実行機能向上に有効な活動としてマインドフルネスが挙げられており、著者がタイの保育園で行った実験について紹介されています。

■規律ある園生活
このように瞑想をただじっとしている状態なのではなく、次への目標(これからはじまる日課活動)のための自己制御ととらえれば、先ほどの栁澤先生の実験結果も腑に落ちるものがあるでしょう。
考えてみれば、総幼研の日常の保育にもそういった「目標のためにいまを自制する」場面は数多くみられます。体育ローテーションのとびばこや、日課の名前カードも、自分の順番をキープする、という点は同じことでしょうし、しつけカレンダーのようにそれを月単位で目標化して、園生活全体を律することもそうでしょう。「先生に指示されたから」ではなく、「自分を自制できたから」目標が活きてくるのです。
園生活の規律もそうです。規律があってルールがみんなで共有され、だからこそ楽しい(脳活性化される)園生活が担保されるのであって、子どもが憧れる目標をどう設定し、またていねいにかかわるのか、が先生の力量の問われるところでしょう。書評にも書きましたが、強制や命令ではなく、よい意味で先生が「管理的」にかかわりながら、子どもが自発的に規律を守るよう導くのです。そんな、子どもたちが目標のために自制する「小さながまん」が総幼研活動のひとつのヒントになるのかもしれません。瞑想はその象徴的な活動なのです。
世間では、自分を抑えられない大人が多くなりました。あおり運転もカスタマーハラスメントも、いわば大人の実行機能が劣化した結果です。ハラリのように人類の未来を憂うる器ではありませんが、幼児期の実行機能発達によって、未来の社会にいささかの貢献はできるではないか。そんなことを考えています。

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