第4回 プリミティヴな最先端の知見 子どもと「話す」ということ。

「3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ」
ダナ・サスキンド著/掛札逸美訳 明石書店刊

教育界における最先端ICT機器を開発し、世に送り続けるアメリカがいま「3000万語イニシアティブ」という大規模な教育プログラムに取り組んでいる。医者、社会学者、教育学者、教員、ソーシャルワーカー、政策関係者などが開発、推進にかかわる注目のプログラムである。21世紀のアメリカ最先端の教育的知見を盛り込んだその内容は、意外なものだ。「大人は子どもと、もっと話そう」である。

専門職の家庭で育つ子と、生活保護家庭で育つ子では、0歳から4歳になるまでの間に聞き話すことばの数が「3000万語(同一語を含む)」ものひらきを持つという。この4年間での3000万語の差が、後の算数や国語の認知能力、粘り強さ、自己制御力、思いやりなど、子どもが生きていく上で強力な助けとなる様々な力の差へとつながるのだ。

シカゴ大学医科大学院の小児科教授として長年、子どもの人工内耳移植に取り組む医者である著者は、人工内耳を移植した幼児の中で、その後すぐに話し、聴く能力を獲得していく子、「物理的には」聞こえるようにはなっても、話し、聴くことはできないままの子とがいる原因を、幼児期の子どもを取り囲む「ことばの環境」の違いに見出す。さらに幼少時の豊かなことばの環境は、耳の聞こえない子どものみならず、全ての発達過程にある子どもたちにとっても、必要不可欠な最大の発達因子であると確信を持つに至る。

そして、子どもと大人のことばの環境を構築していくための方法論を、この「3000万語イニシアティブ」というプロジェクトを通して、子どもにかかわる全ての大人に広める実践へと結実させたのである。このプロジェクトでは、具体的にどのように大人が子どもとことば環境を構築していくのかを、「3つのT」(Tune In/注意とからだを子どもに向けて)Talk More/子どもとたくさん話す)Take Turns /子どもと交互に対話する)という観点を挙げる。

第5章ではこの観点から、様々な生活場面において、具体的にどのようなことばがけができるかを豊富に例示している。子どもに向き合い、命令や指示ではない「ことば」をかけ、子どもがいおうとしている「何か」を先取りせずにじっくり待ち、会話を広げていく。テレビ画面やデジタル機器を介さずに、生身の人間同士で声を掛け合う。これをただ、くり返しくり返し実践するのである。特別な教材、場所、機会に拠らず、必要なものはただ、親や先生の「ことば」のみ。日々の保育の「ことばがけ」の重要性を再認識しないわけにいかない。

一見、極めてプリミティヴなこの取り組みが、子どもの内側にことばを増やし、神経回路をつなぎ、認知能力を高め、忍耐強さや他者への寛容さを深める、「最新の」方法論であることを、著者はこのプロジェクトを通して明らかにしつつある。

秋田光彦

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