第11回 子どもの「思考力」につながる 「足場かけ」。

「親子で育てる ことば力と思考力」
今井むつみ著 筑摩書房刊

今井むつみ氏(慶應義塾大学教授の発達心理学者)のこれまでの著作も、子どもが母語を話すようになる仕組みなど、専門的知見を平易に伝えるものだったが、本書は保護者向けに書かれており、子どもが「思考力」を身につけるにはどのようにかかわるべきかが、かわいらしいイラストとともに押さえられている。

母語を獲得していない子どもに、「これは〇〇だよ」とことばの意味を教えることはできない。実は子どもは大人からことばを教わるのではなく、生きる経験の中での推測と試行錯誤を通して、一つひとつのことばの意味を自分で確かめているのだ。ことばを自分の力でたくさん覚えることは、状況の中にある様々な手がかりと、すでに持っていることばの知識を使って、新しいことばの意味を考える練習をすることを意味する。著者によれば、幼児期から小学校以降にかけて、こうした練習をくり返すことで「思考力」が向上するという。

さて、ここでたいせつなことは、子どもがことばを「自分の力で」覚えることである。どんな子どもも、母語の獲得という困難な課題をクリアするだけの、学びに向かう大きな力をもっている(大人が英語を話せるようになるまでの困難さを思い起こそう)。しかし、「勉強」として先生から教えられた知識は、子どもにとっては状況に合わせて活用できない「死んだ知識」となる。いかに「勉強」と思われないかが、鍵なのだ。「日常生活やあそびの中で、五感全体で身の周りを探索し、ことばに関する興味を育む」ためには、大人が上から引っ張り上げるのではなく、子どもの興味に合わせた「足場かけ」のイメージが有効だ。

総幼研教育では、長年「あそび」としての学びを推し進めてきた。たとえば、かずのプリント教材の問題では空間や時間、数、量などが扱われているが、それは知識をそのまま教えているのではない。その先行体験として、先生や友だちの動きや、モノの場所や関係、数量などの生活体験とセットになっており、豊かな「あそび」を通して、生きた知識と出会うことをねらっている。幼児にはむずかしそうな概念も、自分で意味を考える練習をくり返すことで思考力が芽生えていく。プリントも有効な「足場かけ」の手段なのだ。

ことばも同じだ。課題活動などはとかく教室内の「お勉強」と誤読されがちなものを、どう経験を通して、生きた知識とできるか。戸外あそびも、給食の時間も、遠足や行事も含めて、園生活とは全てが、ことばに限りない興味をはぐくむための尊い現場なのだ、と思う。

秋田光彦

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