集合経験と身体知。

■支援か、管理か
3月から配信される総幼研フォーラムの代替配信動画にて、森口佑介先生と対談の時間を持ちました。京都大学にて発達心理学を専門にされており、子どもの自己制御力を担う実行機能という脳の研究で著名な研究者です。動画の前半では、実行機能が幼児期に著しく発達し、成人後の社会的成功に大きな影響を及ぼすというお話もありました。
私が注目したのは、森口先生がおっしゃるその実行機能の「鍛え方」です。実行機能(すなわち自己制御力)とは噛み砕いていえば「自分で目標を立て、それを達成する力」なのですが、園における集団活動がその下支えになり、しかも、具体的なプログラムとして、運動、音楽、瞑想の効用を挙げておられました。いずれも総幼研活動の柱でもあるので、たいへん腑に落ちたところでもありました。
対談ではこんなお話もしました。子どもの自主性を尊重する「支援的な教育」がたいせつであることはいうまでもありませんが、特に日本における(一定の統制を行う)「管理的な教育」の必要性にも触れておられました。叱責や体罰を管理教育というなら、もちろん容認されるものではありませんが、共通のルールをつくって、大人もそれを守りながら規律ある生活を過ごすことは、「管理的な教育」として有効であるということでしょう。「支援」か「管理」かという二項対立ではなく、極端に偏ることのないバランスのとれた園活動が、実行機能には一番有効であると思いました。総幼研教育に取り組むにあたり、まことに有意義な示唆をいただくことができました(動画をご覧になった園長先生方は、森口先生の著書『自分をコントロールする力』⦅講談社現代新書⦆)もぜひご一読ください)。

■オンライン、集合研修のバランス
以上のようなお話が、Zoomを使って、場所を移動することなく、わずか30分でできてしまうわけですから、コロナ禍にあって、学習やコミュニケーションのあり方は劇的に変化していると感じます。総合新任研修会の実技指導でもこの手法を取り入れ、好評をいただいていると聞きます。
オンライン学習の利点は、「くり返し視聴できる」「時間をこちらで選択できる」「先生みんなで共有できる」等々、枚挙にいとまがありませんが、反面皆で集えるリアルな集合研修についても、再開を熱望される声も少なくありません。恐らくは、ポストコロナ時代には、その両方を上手に運用していくことになるのでしょう。ここでもバランスが必要です。
しかし、オンラインの便利さを経験してしまうと、逆に集合研修のねらいがどこにあるのかを考えさせられます。時間や場所を調整して、経費をかけて集まる「不合理さ」を上回る意義とは何でしょう。もちろん、会場の一体感や仲間意識はわかるのですが、おそらくそこには知識や技術習得のレベルとは異なる学びの特徴が浮き彫りとなります。
短い紙幅ではいい尽くせないのですが、画面前の個人の経験を超えて、同じ時空を共有した参加者同士の集合的な経験が知覚され、そこから醸し出される周囲の表情や声や感情も含め、からだごと「わかる」「共感できる」という身体知をはぐくむのかと思います。
総幼研のプリンシプル「動き・ことば・リズム」は、リモートでは伝わりません。それ同様に、やはり人は集まり、願いをひとつにして、わかちあい、それを体得していくという学びの本質を思わないではいられないのです。

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